小さな魔法使い





それはぼくが清々しい目覚めに身を起こし、爽やかに朝食をつついている(あれ?)時に起こった。
なんだか激しく玄関の戸を叩く音がする。今まさに口に運ぶ途中だった卵焼き。
しばらく悩んだ末にぼくはそれをぱくりと食べて、もごもごしながら戸を開けにかかった……んだけど。
なんだろう、何かがおかしいんだよ。この音は戸を叩いてるっていうより……ああ、そうそう。つついてる音だ!
納得してご機嫌に戸を開けると、鋭い凶器と化した鳥のくちばしが勢いよく突っ込んできた。
あ、あ、あ、あぶなかった。なんとかすんでのところで避けたけど、直撃してたら結構痛かったと思う。
ところでぼくの目の前でひっくり返っている鳥さんはどうやら郵便ペリカンみたいだった。
まつげぱっちりのかわいらしい目をしてるあたり女の子なのかも。お手紙でも届けに来たのかなあ。
そんなことを考えていると、郵便ペリカンちゃんがひっくり返った体勢のままで叫びはじめた。



「たいへんよ!たいへん!ドミナの西の方にヘンなカボチャが大発生したの!」



たいへんなのは今の君の体勢の方じゃないかなあ。
とりあえず今のままだとかわいそうだから起こしてあげないと。よいしょ。にしたって――――



「カボチャの大発生?」

「そう!きっと悪ぅーい悪ぅーい魔法使いが、カボチャの大軍で私たちをミナゴロシにする気よ!」

「み、みなごろし……」



それはおおごとだ。でもカボチャって人を殺せたっけ?むしろカボチャが人に殺される方なんじゃないかなあ。
あ、そっか!いつも刈り取られる立場に我慢ができなくなったんだね、きっと。
それで悪ぅーい魔法使いを先導に、ぼくら人間に復讐をするつもりなのか。困ったなあ。
この郵便ペリカンちゃんはそのことをみんなに伝えようとあちこちを飛び回ってるんだね。
ようしっ、とぼくは意気込んだ。カボチャたちには悪いけど、ぼくらはまだ滅ぶわけにはいかない!



「大丈夫、ぼくがその悪ぅーい悪ぅーい魔法使いを退治してきてあげるよ!」

「ほんと?よかった!安心してお手紙配達できないところだったの!
もう行かなきゃ!ミーはとっても怖くてドキドキしてるの!それじゃ、シーユーアゲン!」



一気にまくしたてて、郵便ペリカンちゃんはバサバサと飛び立っていってしまった。
途中でカボチャたちに襲われないといいけど……さすがのカボチャも空までは行けないから大丈夫だよね。
ぼくは郵便ペリカンちゃんたちを見送ると、くるりと踵を返して家の中に戻り槍を手に取った。
恐れていた筋肉痛は想像してたよりもひどくはないみたいだから大丈夫。
それに昨日の盗賊との戦いのおかげで、だいぶ戦い方を思い出したような気がするんだ。
魔法使いがどれだけ強いかわかんないけど懐にさえ入ってしまえば勝ったも同然。
バランス感覚ほどじゃないけど、素早さには少し自信があるしね。
さあ行くぞ!カボチャたち、今日のごはんのおかずにしてあげるから覚悟しててね!
ぼくはすっかり南を通り過ぎてしまってるおひさまの下を、ドミナに向かってずんずんと歩き出した。











***











こういう時はまず情報収集だよね。なんにもしらないまま敵に突っ込んじゃうなんてあぶないもの。
うーん、どこがいいかなあ。一番近くにあるティーポさんのお家に行ってみようかな。
カブトムシなおじさんも、ティーポさんも結構いい人っぽかったから、何かきっと教えてくれると思うんだ。
あのドゥエルくんもアドバイスしてくれるかもしれないし。
ぼくはとてとてとティーポさん家に歩いていって、こんにちはとドアを開けた。
ドアの先に広がったのはあのおへやじゃなくて……なんていうかな、お店。だった。
こぎれいに整頓された棚にはいろいろな品物が置いてあって、中には武器や防具もあった。
わ、人間の石像まである。ローブを着た小さなこどもの石像ですごくよくできてるんだよ。まるで生きてるみたい。
……それにしてもおかしいな、ぼくは道具屋さんじゃなくてティーポさん家のドアを開けたんだけど。



「あら、いらっしゃい」



びっくりして振り向いたら奥の方のカウンターに昆虫人の女の人が立っていた。
親しみやすそうなおばさんだ。昨日のカブトムシなおじさんとは違って、
この人はきれいなちょうちょの羽を持っている。(飛べるかな?)とりあえず挨拶しなきゃ。



「こんにちは。ぼく、ルークっていうんだ」

「私はジェニファーよ。お店に来てくれるのは初めてね?」

「うん。……あの、ここってティーポさん家だよね?」

「あらやだ!ここは私たち夫婦の家よ。まあティーポも家族の一員だけど」

「あ、ご、ごめんなさい。ぼくここがお店だなんて知らなくて」



慌てて頭を下げたぼくをジェニファーさんは「あらいいわよ別にィ」とおおらかに笑ってくれた。
うーん、でもやっぱりもうしわけないなあ。お詫びといってはなんだけど銅製の小手を一組買ってみた。
安かったし、動きが鈍くなるほど重くないからちょうどよかったんだ。



「ティーポに会ってくなら奥のドアを使いなさいな。うちの居間でいつもお茶を飲んでるから」

「ありがとう!」



も一度頭を下げて、ぼくはカウンターのそばのドアを開けた。このお家の人はみんないい人だね!
と、入ったとたんドゥエルくんと目が合った。



「おや君は……チャボくんだったかな?」

「やだなあ違うよ。ぼくの名前はルークっていうんだ」



昨日会ったばっかりなのに。ドゥエルくんって実は忘れっぽいのかな?



「まあ名前なんてどうでもいいさー。昨日ニキータと一緒にいたけど、ぼったくられたろ。
あんまりあいつと関わんない方がいいよ。ティーポなんていくつガラクタ掴まされたことか」

「うるさいなあ。そのことはもう言わんといて」

「そういやティーポ。昨日の―――車輪だっけ?あんなモンに本当に50000ルクも払うのかい?」



ぼくは思わずびくっとなってしまった。
だって『車輪』はぼくが使ってしまって、文字通りもうないんだもの。
もしもティーポさんがまだ必要としていてなおかつお金を用意をしちゃっていたら……。



「あんなモン、もういらへんいらへん!たかが車輪にそんな大金使う気なんてさらさらないわ!」



ティーポさんはぷりぷりと怒って大きな体を揺らした。
中に水でも入ってるのかな、揺れるたびにちゃぽちゃぽ水音が聞こえた。
その様子をドゥエルくんが楽しそうに見守っている。ふたりに隠れて、ぼくはそっと胸を撫で下ろした。
ティーポさんはもう車輪はいらないんだね。よかった。こっぴどく叱られちゃうかと思ったよ。



「あはは、落ち着きなよティーポ。ところでルーク、今日は何の用だい?」

「あ、うん」



いけない、すっかり忘れてた。怒りに燃えるカボチャたちを利用してる悪ぅーい魔法使いを退治するんだったんだ。
でもドゥエルくんたちの様子を見ると、ペリカンちゃんほど怖がってないみたいなんだよね。



「西の方にカボチャが大発生してるらしいけど……」

「ああ、町外れのアレか」

「子どものイタズラやろ。まったく親は何やってんねんなぁ」

「え!?ちょ、ちょっと待って!」

「ん?」

「悪ぅーい魔法使いがカボチャでミナゴロシじゃないの!?」

「ははあ、さては郵便ペリカンにヘンなこと吹き込まれたな。まあ魔法使いの仕業には違いないけどさ」

「きっとジオかガトの魔法学校から来たんやな」

「だろうね。あの大量のカボチャは課外活動の一環か何かかなあ」



誰か止めた方がええんちゃう?とティーポさんはまるでひとごとのように言う。
どうやらペリカンちゃんが単に大げさだっただけみたい。なんだか拍子抜けしちゃった。
でも本当に悪ぅーい魔法使いの仕業じゃなくてよかったよね。そんなことになったらたいへんだもの。
それに正直言っちゃうと、ぼく、自信があんまりなかったんだ。だって魔法使いと戦ったことなんてなかったし。
魔法学校で修行中の魔法使い、それも子どもなら楽勝といわなくてもあんまり苦戦はしないはず。
カボチャが大発生してるという町外れの場所を聞いて、ぼくはふたりにお礼を言ってからその場を立ち去った。
教えられた道順をたどりながらまわりに広がる景色を楽しんでみる。暖かいなあ、やっぱり。
あぜ道を進むうちに、なんだか楽しそうな音楽が聴こえてきた。なんだろう?
なんだかわくわくするよね、こういうの。ちょっとだけ早足で急いでみようかな。何があるのかな。

進んだ先にあったのはちょっとした公園だった。あ、噴水がある!
たしか草人くんからもらった『積木』からイメージした公園もこんな感じだったなあ。
そうだ、噴水の水を触ってみたかったんだよ。きれいな水だなあ。冷たくて気持ちよさそう。
って、ちがうちがう。子どもの魔法使いのイタズラを止めなきゃいけないんだよ。
さっき聴こえた音楽に合わせて芸をしてる大道芸人のコンビを横目で追いながら、ぼくは先に急ぐことにした。
落ち着いたらあとで見にくるからね。それまで待っててね。絶対行くったら行くんだってば。

公園を抜けるとお家がいくつか並んでるところに出た。ドゥエルくんのお話しではこの先が町外れなんだって。
とそこで、ペリカンちゃんがうろうろしてるのをぼくは見つけた。
話しかけようかと思ったけど、なにかのお歌をうたってる。ちょっと聴いてみよう。



「ミーの仕事はゆーびん♪配達♪だけどカボチャがコワイの♪コワイの♪」



……ちっとも怖がってるように見えないのは気のせい、なのかなあ。なんだか楽しそう。
だけど郵便配達ができないのはたいへんだ。子どものイタズラなら大したことはないと思ってたけど、
こんなところで思わぬ被害が及んでたとは思わなかったよ。どうにかしないと。
やっぱり子どもだからって許しちゃダメだよね。ここで許したら将来ゆがんだ大人になっちゃうかもしれないし。



「ようし、がんばるぞ」



あらためて気合いを入れて、ぼくは町外れに踏み込んだ。











***











カボチャカボチャカボチャ。目の前にあるのはカボチャばかり。
カボチャの大群ってどんな感じ?って聞いてみたら、返ってきた答えがカボチャジャングルって感じ。
すごいなあ、これ。魔法ってこんなこともできるんだ。じゃがいもとかも出せるのかな。
あ、そだ。今日のごはんはカボチャカレーにしよう。まろやかでおいしいんだよ。卵とかも入れるのもいいよね。
でもこのカボチャ、おかしいんだよ。まるでハロウィンカボチャみたいに不気味に笑った顔があるんだ。
さぞかし笑い声も不気味なんだろうなあ。たとえば………



「ケケケケケ!」



そうそう、そんな感じの。まさにケケケケケって感じ。……って今の声、ぼくの声じゃないなあ。
いったいどこから聞こえたんだろ?きょろきょろしてみたりぴょんぴょんしてると、
小さくひらけてるところがあるのにぼくは気づいた。そしてそこに男の子と女の子がひとりずついることにも。



「バド〜、そーゆー笑い方やめてー」



動くたびに赤紫色のポニーテールが揺れる。
かわいい顔の眉間にしわを寄せて、女の子は男の子(バドっていうらしい)に抗議した。



「コロナ!お前も笑え!支配者スマイルだ!」



一方バドくんとやらもコロナちゃんとやらと同じ赤紫色の髪。わっ、おんなじ顔だ。双子ちゃんなのかな?
よく見ると、ふたりとも耳がおおきくて先がとんがってた。森人の双子ちゃんかあ。
腰に手をあてて、バドくんは手本を見せるように高らかに笑ってみせた。ケケケケケケケケケッ!



「カボチャで世界を支配するの???バッカみたい!」



わあ、きっつい。ご機嫌に笑ってたはずのバドくんがヘコんじゃってるよ。コロナちゃんもそっぽ向いちゃったし。
ど、どうしたらいいのかなあこれ。とりあえず話しかけてみようかな。
もしかしたら話し合いで解決できるかもしれない。ぼくは身を隠してたカボチャジャングルから抜け出した。



「ね、きみたち〜」



話しかけると、ふたりは勢いよく振り返った。特にバドくんは目がお皿みたいになっている。
でもそれはほんとに一瞬のことで、バドくんは怖い顔をして後ろに飛び退いた。



「怪しいヤツ!!!追い返すぞ!コロナ!」

「カボチャにやらせればいいじゃん」

「そーゆーのはこれからの課題だ!!」

「やれやれ……。頭、冷やさなきゃダメね」



ため息をあんまり子どもらしくなくふうっと吐いて、コロナちゃんは大きなほうきを構えた。
バドくんも同様、戦う気まんまんにフライパンを取り出した。
……話し合い、無理そう。しょうがないのでぼくも槍を構えることにした。
でも刃にかぶせてる布は外さないよ。いくら魔法使いだっていっても、相手はまだ子どもだもんね。



「やああぁぁぁっ!」



おたけびをあげながらコロナちゃんが突っ込んでくる。
ギリギリまで引きつけてからさっと避けると、思った通りに体勢を崩してぐらりと揺れた。
そこを狙って槍の柄で足払い。ひっくり返った拍子にほうきが離れて、音も立てずに草の上に落ちた。
拾われたら面倒かも。そう思ったぼくはコロナちゃんが起きあがる前にほうきを拾うことにした。
だけど拾おうと腰を屈めたその瞬間に、なぜかあたりが暗くなった。なんだろ、まだ夜には早い時間なのに。
ぱっと空を見上げてみて、ぼくは思わず「げ」ってなった。バドくんが大きなカボチャの上に座ってたんだ。
……そういえばパンプキンボムっていう爆弾を聞いたことがあるような気がするなあ。



「くらえ、カボチャ攻撃ーっ!」

「KeKeKeKeKe!」



さっきのとはぜんぜんちがう、まさに不気味な声でカボチャが笑う。って、バドくんたらもういない。
もしかしてぼくも逃げないとやばい?っていうか殺す気まんまんなんだねきみたち。
ぼくもあわててその場から飛び退こうとしたんだけど、うしろでコロナちゃんの呻く声が聞こえてしまったから。
まさかあんな小さな子を見捨てられるわけがない。っていうかなんでまだ起き上がってないの!?
急いで戻ってコロナちゃんを抱えた時には、もうカボチャの目と口から光が漏れ出していた。
やばいやばいやばい!さっきのカボチャジャングルに隠れればなんとかなるかな?
ほうきを手にコロナちゃんを脇にぼくは駆け出して、転がるようにしてカボチャジャングルの中に逃げ込んだ。
とたん、耳が痛くなりそうな大きな爆音と強い爆風が巻き起こった。……巻き込まれてたらほんとに死んでたかも。
爆発の影響でもうもうと粉塵があがってる。うわ、あたりなんにも見えないや。
ふと見ると、コロナちゃんは気絶してるみたいだった。ひっくり返った時に頭でも打ったかな?
そっと後頭部を撫でてみたら小さなこぶみたいなものができかけてた。女の子なのに悪いことしちゃった。
風が吹いてるおかげで粉塵が晴れてきたみたい。だんだんあたりのものが見えはじめてきたよ。
と、近づいてくる敵意を感じて、ぼくは槍の刃につけていた布をしゅるりと解いた。
ここまで来るともういたずらの範囲を超えてると思うんだ。子どもとか関係ないと思うんだ。



「りゃあぁっ!!!」



たぶん、何が起きたかちょっとわからなかったんじゃないかな。バドくんは。
気づいたら自分の得物は彼方に離れてて、地面に仰向けになってて、鋭利な刃を首元に突きつけられてたんだから。
まあぼくの正確な位置がわかったのはすごいと思うけど、これも魔法か何かなのかな?
バドくんは戸惑ったようにまばたきして、刃と自分を見下ろしているぼくとを見比べている。
そしてすぐ近くで倒れているコロナちゃんに気づくと、慌てたように一声叫んだ。



「コロナに何したんだよ!!少しでもケガさせてみろ、オレがぶっとば――――」

「きみが言うかなあ、それ。ぼくが助けなかったら、この子爆発に巻き込まれてたと思うんだけどな」



ぐっ、とバドくんは言葉に詰まる。
そのまま喋る気配もない。バドくんの目線に合わせるようにしてしゃがんで、ぼくはお話しを続けた。



「あのね。んと、カボチャジャングルはいいけど、さ。爆弾とか、そういうのはよくないよ。
ひとにケガをさせちゃうし、へたしたら死んじゃうし。人殺しって言われちゃうのはコワイことなんだ。
きみたちの年齢じゃまだよくわかんないかもしれないけど、んと、うん……」



下を向いちゃってるからバドくんの顔は見えない。ぼくの説教くさいお話し、ちゃんと聞いてくれたかな。
……ぼくも言うこと言っちゃったし、困ったなあ。バドくん何も言わないし。
なんでこんなことしたのか聞いてみようかなとも思ったけど、イタズラに理由なんてないだろうし。
とりあえず槍は引っ込めたけど、困ったなあ。だめもとで聞いてみようかな。



「う――うん?」



視界の隅で何かがもぞもぞ動いてる。目を向けてみるとコロナちゃんがむっくりと起き上がってるところだった。
よかった、打ち所が悪くて目が覚めなかったらどうしようって思ってたんだ。
ぼくはあわててコロナちゃんのもとに駆け寄った。



「だいじょぶ?」

「なんとか……っいた!」

「ご、ごめんね。ちょっと力加減がうまくいかなかったみたい」



さっきひっくり返った時にぶつけた後頭部がやっぱり痛むみたい。
それ以外は特にケガしたところもないみたいだね。ぼくもちょっとだけ安心した。
意識がはっきりしたコロナちゃんはバドくんを見て―――それからためいきをついた。



「バド、だから言ったでしょ。こんなことはやめようって。大人にかなうわけないんだから」

「……お」



バドくんが勢いよく起き上がった。どうしたんだろ??



「オレを弟子にしてくだせぇ!」



……やけにきらきらしてる目で見上げて、よくそんな元気良く信じられないことを。
ぼく魔法なんて使えないよ。もっぱら槍専門だし、たいした魔力もないし。
ごめんね。かわいそうだけどバドくんの頼みはきいてあげられないよ。



「ちょっ、バド!何言ってるの!
ごめんなさい、私たち双子の姉弟なんです。私はコロナ、そっちがバド。バドったらイタズラばかりしてるの」

「お願いします!修行だと思えば薪割りでも皿洗いでもなんでも苦になりませんから!」

「バド、やめなよ。この人が迷惑するじゃん」



まったく、とコロナちゃんはぷうっと頬を膨らませた。



「今回のことも、宿がないなら世界征服すればいいとかわけわかんないこと言っちゃってさあ」

「うっせぇなあ!だったらコロナはなんかいい考えあったのかよ!」

「私の意見聞く気なんかぜんっぜんなかったくせに!
小さな田舎町でも探せばいくらでも住み込みのバイトがあったじゃない!」



そういえばこんな言葉があったなあ。ケンケンガクガク。意見が飛び交って騒がしいことを言うんだっけ。
って、ちょっと待って。なんだかさっき引っかかる言葉があったんだけど……。
とりあえずケンカは良くないよ。ぼくはふたりの間に割って入った。



「宿がないってどういうこと?」



まだまだお父さんとお母さんが必要な年齢の子どもが行くあてがないなんて、そんなのないよ。
疑問だらけのぼくに、ふたりは淡々と教えてくれた。



「オレたち、ジオの魔法学園の生徒なんだ。学園の寮に入ってたんだけど……」

「お父さんとお母さんが魔法実験の事故で死んじゃって、学費が払えなくなったから、しかたなく学園を出たんです。
バドのイタズラが過ぎて肩身が狭いっていうのもありましたけど」



じろりとにらまれて、バドくんは身を小さくした。まだ子どもなのに、両親をなくしてるなんて。
それなのにちっともめげることなくむしろ図太くたくましく世界征服なんて……なんっっって強い子たち!



「バドくん!コロナちゃん!」

「「は、はいっ!?」」



槍を放り投げて、ぼくはふたりがびっくりしてるのにも構わず肩を強く掴んだ。



「行くあてがないならぼくのお家においで!家は狭いけど敷地は広いから思いっきり魔法の練習もできるから!」

「そ、それって!弟子OKってこと!?」

「ぼく魔法とかぜんぜんだけど、それでもいいなら!護身術くらいなら教えてあげられるし!」

「やったーーー!!!」



バドくんは飛び上がって喜んでくれた。カボチャの間をぴょんぴょん跳ね回って、とにかく喜びを全身で表してる。
あそこまで喜んでくれるとは思ってなかったなあ。なんだかこっちまで嬉しくなっちゃうや。
対照的にコロナちゃんはもうしわけなさそうに笑って、お世話になりますと頭を下げた。



「ぼくルークっていうの。それにそんなにかしこまらなくていいよぅ。今日から家族なんだから」

「ルーク師匠!一番弟子のバドです!これからよろしく!」

「うん、よろしくねー」



それからぼくらは町の人たちにごめんなさいをして、きれいな夕焼け空の中を一緒に手を繋いで帰った。
誰かと手を繋ぐなんて久しぶりだなあ。あったかくていいよねこういうの。
ドミナの人たちはふたりの事情を話すと快く許してくれて、そのうえ何種類か野菜をくれた。ほんとにいい人たち。



「ルークさん、他に家族の人とかいないんですか?」

「いるよ。サボテンくんっていうんだ」

「サボテンくん?植物人ですか?」

「ううん、サボテンくんはサボテン」

「へぇー。師匠が育ててんの?」

「まあ肥料とか水はあげてるけど、サボテンくんは家族だよ。ふたりとも仲良くしてあげてね」



バドくんとコロナちゃんは顔を見合わせて、それから「はーい」とそろってお返事をした。
うふふ、かわいいなあ。弟と妹ができた気分。……そういえばカボチャカレーのことすっかり忘れてた。
もらった野菜の中にはカボチャなかったんだよね。ちょっと残念だけど、家にあるのともらった野菜で作ろうか。
でも、今までサボテンくんとふたりっきりだったから、きっとにぎやかになるだろうなあ。
サボテンくんは無口だから、おしゃべりっていってもぼくが一方的に喋ってるだけなんだよね。結構寂しいよ?



「あ、ねぇ、魔法学園の学費のことなんだけど。しょーがくきんとか、そういうのもらうのはできなかったの?」

「オレたち、成績悪かったんだ」

「奨学生になれる条件はいろいろありますけど、その中には成績が優秀であることが絶対なんです。
もう学園を出るしかなかったんですよ。学費を滞納したらそれこそ……」



コロナちゃんはぶるりと体を震わせた。おひさまが沈みかかってはいるけど、たいして寒くないのになあ。
怖いあまりに寒気がしたって考えてもいいのかな?ちょっと顔色が悪い気もするし。
それはそうと続きをいっこうに言おうとしないコロナちゃんのあとを、バドくんが引き継いだ。



「師匠、道具屋に子どもの石像があるの見た?」

「?うん、見たよー。まるで生きてるみたいにいきいきしてたけど、どんな人が作ったんだろうねぇ」

「……あれ、人間が石化したものなんですよ」

「えっ、えええええぇぇ!!?」



そ、そんな。悪魔系モンスターの攻撃で一時的な石化は聞いたことはあるけど、完全な石化なんてあるの?
ってことは、あれ、魔法学園の生徒だったんだ。そういえばなんだかおびえてるような顔をしてたような気が……。



「ジオの魔法学園には、石化の魔獣バジリスクの血が入ってる先生がいるんだ。
あまりにも学費を滞納してる生徒がいたらそいつを石化させて売っ払って、元を取るというかなんというか……」

「あそこはたくさんのことを学べますけど、それだけリスクが高いところでもありました」

「抜け出してきてちょっと正解だったような気もしなくもない」



なるほど。それは確かに飛び出しちゃわないと自分たちがあぶない。



「出たはいいものの行くところがないし」

「親戚なんてどこにいるか知らないし」

「そして今日に至る、と」

「でもルークさんに会えたのはラッキーでした」



同感、とバドくんもニシシと笑って言う。
コロナちゃんもバド君も、ホメても何もでないのになあ。
でもいつか言い返してやるからね。「ぼく、ふたりに会えてラッキーだったよ」











***











晩ごはんやおふとん敷き、一通りのことを終えたぼくは今、サボテンくんの前に座っていた。
新しい家族が増えたことをサボテンくんに教えてあげるんだ。
サボテンくん、静かだったこの家もこれから賑やかになるんだよ。嬉しいねぇ。
今日あったことを一通り話し終えると、サボテンくんはにっこり笑って一言だけつぶやいた。



「カボチャがケケケだったね」



あはは、そうだね。



「師匠!皿洗い終わったよー!」

「暖炉の火も消しました!」



階段を駆け上がってきたバドくんとコロナちゃんが顔をのぞかせた。ふたりともパジャマにもう着替えてる。
実はふたりは寮から荷物を持ってきていて、魔法で小さくしてポケットに入れていたらしい。
それを元通りのサイズに戻す魔法を晩ごはんのあとに見せてもらったんだけど、とっても鮮やかだった。
成績が良くないなんて言ってたけどほんとなのかな?とっても上手にできてたのに。



「あっ!師匠、それが例のサボテン?」

「えへへ、かわいいでしょ」

「ふしぎですねぇ。サボテンに顔があるなんて」

「だよねえ。それにちょっとだけお話しもできるんだよ」

「え?サボテンが?」

「サボテンくん、バドくんとコロナちゃんだよ。今日から家族の一員なんだ。ケンカしないで仲良くしてね」



サボテンくんはしゃべらなかった。



「やっぱり恥ずかしいのかなあ。でもこれからいっしょにいればきっと仲良くなれるよ」

「ふうん……」

「いつかは喋ってくれますか?」

「きっとそうだよ。さあ、もう遅いしそろそろ寝よう」



ぼくはあくびをひとつして、ベッドの中に潜り込んだ。
バドくんとコロナちゃんもそれに続いて、床に敷いたおふとんの中に潜った。
ランプを消そうと手を伸ばす。だけどぼくは思いとどまった。ちょっといいことを思いついたんだ。



「バドくん、コロナちゃん。いっしょのおふとんで寝ようよ!」

「「えっ?」」

「ほら、なんていうか記念にさぁ」



それにさんにんいっしょに寝たらきっとあったかいと思うんだ。
顔を見合わせるふたりをぼくは急かして、ちょっと無理矢理引き込む形でベッドに入れた。
ぼくを真ん中にしてベッドの中で川の字。サボテンくんとふたりだったらできなかったことだなあ。
ちょっぴりせまいけどだいじょうぶ。ふたりもなんだか嬉しそうだし、よかった。
いちばん近いバドくんにランプを消してもらって、まっくらななか、ぼくらは目を閉じた。



「……じゃあ、おやすみ」

「おやすみ〜」

「おやすみなさーい」



明日は何をしよう。そういえばあの珠魅のパートナーは見つかったのかな。
様子見ってことで酒場に行ってみようかな。
でもドゥエルくんに怒られないかなあ。なんだかケンカしてたみたいだし……ううん、大丈夫だよね。



――――そんな考えごとをしていたぼくは、
バドくんとコロナちゃんがお父さんとお母さんを想い出して泣いてることに気づいてあげられなかった。









戻る。