ホームタウンドミナ





道を歩いていると、10分もしないうちに小さな町が見えてきた。
吊るされた小さな看板も、ぼくの癖っ毛もあたたかい穏やかな風に揺れている。
近づいてくるドミナはあの時のイメージとおんなじで、思わず嬉しくなったぼくは走り出した。
途中小石につまずいたけど大丈夫。これでもバランス感覚には自信があるんだ。
誰に急かされてるわけでもないのにぼくは走り続けて、"Welcome Domina"と書かれた看板をくぐった。
はあ、はあ、はあ。しばらく身体を動かしてなかったせいかなあ。ちょっと走っただけなのに息が苦しいや。



「おい!」



その時ぼくは膝に手をついて呼吸を整えていたんだけど、慌てて顔を上げて姿勢を正した。
知らないうちに何かやっちゃって、叱られたと思ったんだ。だけどそれはぼくの誤解だってすぐにわかった。
ぼくより少し年上くらいの男の子と、玉葱から人間の身体が生えているような外見をした植物人が険悪なムードで向き合ってたんだ。
振り返ったばかりの姿勢で見下ろしてくる男の子に植物人はちょっぴりいらいらした声で名前を聞いた。



「……瑠璃だ」



むすっとした声と表情でそう返すと、瑠璃くんとやらはさっさとお店に引っ込んでしまった。
あそこ、酒場かなあ。お酒飲むような人には見えないんだけど。
お酒飲んじゃだめだよ、まだ未成年っぽいのに。でも瑠璃って名前、なんだかきれいだね。



「チッ、気分悪ィなあ」



そうひとりごちると、植物人はくるりと踵を返した。
なんだろ、口ゲンカでもしたのかな。考えるよりも先に足が出て、ぼくは植物人を追いかけていた。



「あのー…」

「ん?君は……」

「ケンカしてたみたいだけど、なにかあったの?」

「あぁ、大したことじゃないさー」



さっきまでのいらいらした様子がまるで嘘のように、植物人の彼は快く事情を話してくれた。
なんでも瑠璃くんとやらは珠魅の種族でパートナーであるおひめさまとはぐれてしまったんだって。
それで血眼のようにさがしまわってて、ドミナのみなさんはそれはもう迷惑してるらしい。
あ、珠魅っていうのは宝石を核とした種族のこと。外見はほとんどぼくら人間とおんなじなんだけど、
核を抜かれたり砕かれちゃうと死んじゃうらしい。
ぼくは今まで珠魅に会ったことがなかったから、ちょっぴり感動した。そっか、あれが珠魅なんだね。



「すごいよ。だれかれ構わずとっ捕まえて尋問してる感じ。しかも知らないって言っても信じないんだ、これが。
そのうえ本当に知らないってわかったら謝りもせずにどっか行こうとするし……」



それはヤな感じだね、と言うと、オレちょっと迷惑してるさー、と彼は返した。
ケンカじゃなくて良かったけど、瑠璃くんとやらの態度は良いとは言えない。
ドミナのみなさんのためにもどうにかした方がいいかも。あ、そういえば自己紹介がまだだった。



「あのね、ぼくルークっていうんだ。これからよろしくね」

「オレはタマネギ剣士のドゥエルさー。この先の家に友達のティーポがいるんだ。他に話があるんなら、そこで」



したらな!とドゥエルくんが手を上げて挨拶したので、ぼくもそれに倣った。さて、これからどうしよう。
とりあえず瑠璃くんが入っていった酒場に行ってみようかなあ。お酒なんて飲まないから大丈夫。
ぱたぱたと駆けていってドアを開けようとしたら、いきなり視界が真っ暗になって、ぼくは気づいたら尻餅をついていた。
そんなに強くは打たなかったみたいだけど、それなりに痛い。



「アンタ、大丈夫かにゃ?」



ふと顔を上げると、まるっとした体格のおっきな獣人がいた。
どうやらこの人にぶつかったみたい。ぼくは立ち上がり、お尻についた砂を払った。



「う、うん……だいじょうぶだよ」

「ならさっさと退くにゃ。譲り合うのが人の道にゃ」

「あ、ごめん」



獣人が言ってることは正しい。慌てて退けた道を獣人は悠々と歩きはじめた。と思えば、ぼくを見て立ち止まる。



「……戦えるにゃ?」

「え?う、うんまあ、それなりに」



ああ、ぼくじゃなくて背中の槍を見てたんだね。
それにしても、ウサギなのにネコっぽい口調なんて、なんだかヘンなの。ウサギネコってやつかなあ。



「オイラ、旅の行商人のニキータにゃ」

「あ、ぼくはルーク。よろしくね」



いきなりの自己紹介にぼくは内心首を傾げた。さっきからいったいなんなんだろう。



「オイラ、そろそろ別の町に移ろうと思ってるにゃ。
だけど街道には盗賊がいっぱい。こわくて通れないにゃ。アンタもそう思うにゃ?」



一瞬悩んだけど、すぐにぼくはかぶりを振ったよ。だって盗賊なんて一度お仕置きすれば大人しくなるんだ。
もし盗賊に遭ったとしてもぼくは負ける気はしないなあ。これでも腕に自信あるんだよね。
―――そんな理由からNOと答えたぼくに、ニキータくんはにんまりと笑ってみせた。



「頼もしいにゃ。オイラ、盗賊にタコにされて困ってたとこにゃ」



それはお気の毒に。



「一緒に盗賊退治するにゃ。うまく行けば大もうけさせてあげるにゃ」



お金には興味ないし、瑠璃くんのことがちょっとだけ気になるから断りたかったんだよ、ほんとは。
だけど盗賊のことでニキータくんの他にも困っている人がいるんだとしたら……。
さんざん迷ったあげくにうなずくと、ニキータくんはますます嬉しそうに微笑んだ。



「アンタ、話しのわかる人にゃ。ソントクのわかる人は大好きにゃ」



ぼくは困ってる人を助けてあげたいだけなんだってば。









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