想いは遠くマナの樹に寄せて





むかしむかしのおはなし。



まだ人間界にもマナの樹があった頃、草人たちは聖域で日々和やかに暮らしていました。
人々は己のエゴばかりを優先し、日々殺伐と、争いを繰り返していました。
樹はそんな人々の怒りや怨恨、憎しみを自らの中に取り込んで浄化をすることによって世界を守っていました。
けれど僅かでしたが、浄化しきれない毒は少しずつ少しずつ積もってゆき、樹を蝕んでいました。
ある日、ついに憎悪の炎に包まれて、人間界のマナの樹は焼け落ちてしまいました。
そしてその影響か、聖域が在った周辺に位置していた湖や山脈、更には都市までもがアーティファクトに封印されてしまったのです。
樹が焼け落ち聖域が消えてしまっては、マナの力は限られた物の中にしか残されていません。
人々はそれらを巡って争いました。誰よりも強く、誰よりも豊かになるために。
たくさんの血が飛び、たくさんの人が死に、たくさんの涙が流れ、弱い種は刈り取られてゆきました。
やがてマナの力が弱まり、奪い合う人たちがいなくなると、ようやく世界に平和が訪れました。
ですが争いに疲れた人々は求めることをやめ、マナの樹を忘れてゆきました。
ただひとつ人々の記憶に残ったのは願いを叶える力を持つという聖剣――――マナの剣だけ。
それすらも今では、おとぎばなしや伝説として語り継がれる存在でしかありません。
あれほど激しく奪い合われていたアーティファクトも、芸術性のあるものはアンティークとして扱われましたが
かつて戦争で戦ったアーティファクトたちは捨てられ、ゴミの山となって忘れ去られてゆきました。


虚ろな想いを胸に抱きながら生を送る人々の姿を数百年と見守ってきたマナの女神は、ふと寂しくなりました。


私はすべてを限りなく与える存在なのに、子どもたちは求めることを恐れ、ただただ小さな争いに胸を痛めている。
私は愛なのに、子どもたちは愛することを恐れ、ただただ小さな裏切りに胸を痛めている――――……。


マナの樹を、もう一度人間界に蘇らせる必要がある。
考えを固めたマナの女神は、まず神界の草人たちを人間界へと送りました。
最初は僅かにしかいなかった彼らでしたが、すぐに世界各地で見られる存在となりました。
そして、数あるアーティファクトの中からポストの形を成す物を選ぶと、ひとりの草人をそこに封じ込めたのです。
それからすぐに、そのアーティファクトは人間界へと放たれました。


ポストに封じ込められているのは草人だけではありません。ある若者もまた、封じ込められていました。
その若者は今の人々にはないアーティファクト使いの素質を持っていました。
アーティファクトから記憶を感じ取り、イメージすることで封印を解くことができる、高いイメージ力を。
これから若者は様々な体験をするでしょう。様々な人に出会い、様々な想いを抱くのでしょう。
いつか、若者がたくさんの愛に触れることができたなら、あの草人の樹は愛で満たされます。
それがマナの樹が蘇る時。人々は求めることを、愛することを、そしてマナの存在を思い出すでしょう。



これは、むかしむかしのおはなしです。









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